作品展レポート:加藤光峰先生遺墨展

2021年3月、上野の森美術館で開かれた書家・加藤光峰先生の遺墨展を訪れました。
加藤光峰先生は、2019年5月に85歳で亡くなる直前まで、文字通り生涯をかけて中国古代文字を芸術に昇華させられました。「中国最古の文字である甲骨文字」、「青銅器に鋳込まれた金文」、と聞くと非常に難解なものをイメージしますが、実際に目にすると感性的な美しさに圧倒され、特別な知識を持たずとも、誰もが楽しめる作品であると感じました。海外でも人気が高く、作品展を訪れる子どもたちが楽しそうに鑑賞していたという話もよくわかります。

1畳ほどもある紙を複数使って書かれた大作の大きさがわかりやすいよう、ご長女の美環さんと一緒に撮影させていただきました。こちらは遺作となった2019年の作品です。
「常に表現の進化を目指していた父はいつも『最新作が代表作』と言っていました。『自分の心が右腕を通ってほとばしり、作品になるのだ』と最後まで創作に情熱を注ぎました」
古代文字を通じて遥か昔の人々の生活に思いを馳せ、その文化に触れ続けてきた先生は、「もしも可能ならば、時空を超えて当時の人たちと話してみたい」と願っていらっしゃったそうです。遺された作品を見ていると、先生が空の上でその望みを叶えられているのではないかという想像が膨らみます。

それぞれ6畳程もある大型作品も、床に紙を並べて広げ、重石を置いて書いていた、と伺い、緻密な構成の作品がそのようにシンプルな方法で生み出されたことに本当に驚かされます。「余白は墨線と同じくらい重要」と仰っていたそうです。
先生はラーソン・ジュールのフレームを気に入ってくださり、たくさんの小型作品の額装にご利用いただきました。今回展示された小品のほとんどがラーソン・ジュールのフレームで額装されたもので、まとめて見られることが非常に感慨深く、楽しそうに額を選ばれていた先生の姿が懐かしく思い出されました。
美環さんからも「古代文字とスタイリッシュなフレームとの組み合わせがとても美しい」と嬉しいお言葉をいただいた作品群をここに写真でご紹介します。

加藤光峰先生の芸術家人生の集大成と言えるこの作品展の様子は、公式ウェブサイト上に動画としても公開されています。初日に行われた追悼書演も動画化されており、作品創作の様子がわかる非常に興味深い内容になっていますので、是非ご覧ください。

https://kohokato.com/video.html

コロナ禍の影響によって、どの作品展も開催には大きな苦労が伴っていることでしょう。しかしこのようなオンライン展示を通じてより多くの方に芸術鑑賞の機会が届けられるのは幸いなことでもあります。できなくなってしまったことはたくさんありますが、できるようになったことにも目を向けて楽しみを探すことの大切さを改めて感じました。